シャーフ監督の手腕

   2015/05/28

長谷部・乾も新境地 名将シャーフの攻撃的サッカー
引用元:日本経済新聞 2015/4/30 6:30 配信
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86232510Y5A420C1000000/

今季の開幕前、ドイツ1部リーグでアイントラハト・フランクフルトは厳しいシーズンを送ると思われていた。ローデとシュベーグラーという二枚看板のダブルボランチが、そろってチームを去ったからだ(前者はバイエルン・ミュンヘン、後者はホッフェンハイムへ移籍)。

フランクフルトは長谷部誠をニュルンベルクから獲得したものの、1人で2人の穴を埋めることはできない。開幕前、チームメイトの乾貴士は「ゲームをつくれるのが長谷部さんしかいない」と不安を口にしていた。

■シーズン序盤、いきなり天国と地獄

また今季、フランクフルトは新監督にトーマス・シャーフを迎えた。ブレーメンを2004年にドイツ王者に導いた名将とはいえ、フランクフルトに来るまで約14年間ブレーメン以外で指揮を取ったことがない。新たな環境での指揮は未知数だった。

悪い予感は的中し、フランクフルトはシーズンの立ち上がりで、いきなり天国と地獄の両方を味わってしまう。

7節までに勝ち点12(3勝3分け1敗)をあげて5位に躍進したが、8節からパーダーボルン、シュツットガルト、ハノーバーという残留争いのライバルに3連敗。順位は12位まで急降下した。さらにドイツ杯の2回戦でボルシアMGに敗れ、一気にシャーフ監督への風当たりが強くなった。

やはり問題となったのが、ボランチの組み合わせだ。長谷部とセンターバックタイプのルスを組ませたり、中盤をダイヤモンド型にして長谷部のポジションを上げたりしたが、なかなか確信が得られない。4―2―3―1、4―1―4―1、4―3―1―2、4―4―2、どれもしっくりこなかった。

そしてついに選手の不満が、メディアに漏れ始めてしまう。ルスはハノーバー戦後、キッカー誌にこう語った。「私たちは戦略が欠けている」

■選手から意見、攻撃的戦術に転換

選手たちが不満に思ったのは、シャーフ監督が消極的な方向に戦術の舵(かじ)を切ったことだ。高い位置からボールを奪いに行くのではなく、守備ラインを下げて後方にブロックをつくる。これではボールを奪っても、相手ゴールが遠すぎる。「もっと積極的に戦いたい」。それが多くの選手の思いだった。

悪いことに次の相手は王者バイエルン。就任から約5カ月、シャーフ監督は早くも崖っぷちに立たされた。

余裕がない監督であれば、さらにリスクを恐れて、より守備的な戦術を推し進めたかもしれない。だがシャーフ監督は、驚くほどの柔軟さを見せる。バイエルン戦前日にミーティングを開き、選手たちに向かって「おまえたちはどんなサッカーがしたいんだ?」と投げかけたのだ。

乾はこう振り返る。「監督が選手に意見を求めて、攻撃的に戦うことになったんです。ものすごく大きなミーティングでした」

バイエルン相手に、フランクフルトは前線から激しいプレスを挑んだ。結局、0―4の完敗だったが、後半途中まで0―1の接戦が続き、選手たちは大きな手応えを感じることができた。

ここからフランクフルトの反撃が始まる。続くボルシアMG戦で、シャーフ監督は攻撃的な選手をピッチにずらりと並べた。2トップにマイアーとセフェロビッチ、左に乾、右にアイグナー。そしてシュテンデラがトップ下とボランチの間を行き来し、長谷部がアンカーを務めるという可変システムだ(攻撃のときは4―1―3―2、守備のときは4―4―2)。

■アギーレJから新布陣のヒント

実はこの新布陣のヒントは、アギーレジャパンにあった。シャーフ監督は11月に来日し、豊田市で行われた日本対ホンジュラス戦を観戦していた。その試合で長谷部がアンカーを務め、乾は2得点の大活躍。このモデルを輸入しない手はない。

フランクフルトはボルシアMGを翻弄し、乾がだめ押し点を決めて3―1で快勝した。続くドルトムント戦とブレーメン戦も、まったく同じメンバー、同じ布陣で臨んで3連勝。ついにシャーフ監督は最適解を見つけたのである。

長谷部はこう解説する。「シャーフさんはシステムにこだわる監督ではないので、相手によって柔軟に変える部分があります。だから、今でもダブルボランチにすることもある。ただ、もしシュテンデラやキッテルと中盤を組む場合は、彼らはもともとトップ下の選手なので、彼らを自由に前に行かせて、自分がバランスを取るようにしている。1人で広い範囲を見なければいけないが、それだけやりがいがあります」

左MFの乾も、やりやすさを感じていた。「シュテンデラやキッテルがいると、自分がボールを受けたときに選択肢が増える。今までは左でボールを受けると、『1人で何とかしてくれ』というシーンが多かったが、彼らが近づいてくれるので以前より孤立しないでやれるようになりました」

■長谷部「とにかくブレない監督」

フランクフルトは前期を9位で終え、その後も欧州リーグ出場権争いに加わり続けた。4月25日にドルトムントとの直接対決に敗れ、ついに脱落してしまったが、開幕前に降格を心配されていたことを考えれば上出来だろう。

長谷部はシャーフ監督の長所を、こう感じている。「とにかく動じないところがすごい。結果が出ないと守備的なサッカーにしたがると思うんですが、(バイエルン戦以降)前線からボールを奪いに行く攻撃的なサッカーを続けている。中心選手に対しても、ちゃんと守備をしろとはっきり言える。とにかくブレない監督です」

長谷部はアンカー的なボランチとして新境地を開き、出場停止の1試合を除いて全試合に先発している。07年のドイツ移籍以来、初めてリーグ戦の年間出場数が30試合を超えることは間違いない。

乾は4月4日のハノーバー戦を最後に先発から外れているが、今季はドリブルだけでなく、パスでチャンスをつくり、プレーの幅が大きく広がった。それが日本代表での評価につながり、今年1月のアジアカップでは全試合に先発した。

シャーフ監督はブレーメン時代、エジル(現アーセナル)をレアル・マドリーへ、マリン(現アンデルレヒト)をチェルシーへ飛躍させた。テクニシャンを育てることに定評がある監督の下、長谷部と乾はさらにスケールアップしていくに違いない。

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