資質と戦術

   2015/10/23

ハリルホジッチの違和感と“日本的”資質
引用元:SOCCER DIGEST Web 10月22日(木)16時33分配信
http://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=12034

集団戦術が熟成していないチームで、個人の力を示すのは簡単ではない。

 FIFAランキング上位であるイランとのアウェー戦。日本は吉田麻也がPKを献上して先制を許すも、後半に本田圭佑の右サイドからの左足クロスを武藤嘉紀がGKと交錯しながら押し込んだ。1-1のドローは決して悪くないだろう。

 しかしそれはスコアの話で、内容は乏しかった。

 イラン戦、変わりゆく試合の局面においてプレーをアジャストできていたのは、先発メンバーでは長谷部誠ひとりだったかもしれない。歴戦で習得した老練さというのか、中東特有のプレー強度にも対応。ミスはあっても重大ではなく、落ち着いて的確に2列目やサイドの選手にボールをつなげ、守備のバランスも取っていた。

 失点シーンにしても、彼はいち早く危険を察知しており、ボールホルダーに対して冷静に2対1を作っている。

 ところが、経験の差なのだろうか。まるで代表キャップ数の違いが如実に表われるかのように、出場機会を得た控え組は精彩を欠いた。米倉恒貴、酒井高徳、柴崎岳、宇佐美貴史らは経験のなさ故か、戦いの流れに入れずミスが目立った。

 交代で出場した選手たちも五十歩百歩の出来だったと言える。彼らが技術を持っていることは間違いないが、試合のなかで出すことができていない。集団戦術が熟成していないチームで、個人の力を示すのは簡単ではないのだ。

 すなわち、それが今の代表の姿と言える。

 ワールドカップ・アジア最終予選に向け、“試合の流れを掴めない”という点は危惧すべきだろう。シリア戦も前半45分間は、流れを変えられず過ごした(この時も試合にフィットできていたのは岡崎慎司らわずかだった)。

 日本には世界に比肩するボールプレーヤーがいるはずで、彼らがパスをつなぐことでリズム感は出せる。それはプレーの余裕になるはずだが、組み立て段階でボールを失うシーンが多くなっているのだ。

 これは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「縦の速さ」を強調する弊害なのだろうか。日本人は組織を重んじる従順性を持っており、好むと好まざるにかかわらず、監督のメッセージは時に呪縛になる。パスをつないでテンポが作れず、フィジカルインテンシティで押し込まれ、その特長を出せない試合が続いている。縦に速く、という監督の色は濃くなりつつあるのだが……。

ハリルホジッチ監督が遠藤保仁を代表に呼ばない理由は……。

 もっとも、誤解されがちだが、縦の速さを攻撃に取り入れるのは今に始まったことではない。

 アルベルト・ザッケローニ監督もブラジル・ワールドカップ前になって、裏にボールを出して走り込む、という攻撃を盛んに取り入れようとしていた。大会直前の合宿でも、「世界で戦うためには不可欠」と必死にその意識を選手に植え付けようとしている。

 しかし、「ボールを支配して攻める」という自分たちのやり方を過信した主力選手たちは、それを積極的に取り入れなかった。

 ハリルホジッチ監督が遠藤保仁を代表に呼ばないのは年齢の理由もあるだろうが、スタイル浸透を急いでいるからだろう。新たなモデルを作るには、数人の主力は残しても“いくつかのパーツ”を替えた方が手っ取り早い。

 事実、ハビエル・アギーレ前代表監督は2015年1月のアジアカップ、ほぼザックジャパンを踏襲したメンバーで挑み、準々決勝のUAE戦でつなぐことに溺れた結末を迎えているのだ。

 そう考えれば、ハリルホジッチの試行錯誤には同情の余地はあるだろう。

 しかし良くも悪くも、日本ではカウンター戦術を卑怯と捉えるところがある。実際にJ1のクラブを見ても、鋭いカウンターを放つ戦略が定着したチームは皆無に等しい。多くは単なる人海戦術の域を出ず、組織的な守備網は作り上げられたとしても、ジョゼ・モウリーニョやラファエル・ベニテスが率いるチームのように研ぎ澄まされた速攻戦術の確立には至っていない。

 ハリルホジッチの理論は正しいが、どこか違和感がある。その理由は、彼が日本人の特性を弁えず、彼だけの基準で選考、起用していることにあるのかもしれない。

 日本代表に選出できるのはJリーグ、もしくはそこで巣立った選手たちである。指揮官がかつて率いたフランス人やアルジェリア人とは違う。日本人選手は概して(個人差はあるにせよ)、ボールを扱うテクニックに優れ、アジリティに長け、組織や秩序の観念を持つ。その一方で、クロスボールの球質は低く、ゴール前での空中戦も得意とせず、プレッシャーの強度も弱く、自由自律に欠ける。

 代表監督の仕事は、“日本人選手の長所短所をどう組み合わせ、勝利するか”に尽きるだろう。サッカー代表はラグビー代表のように、1年の半分も強化合宿することは不可能。“ハリル色”にすべてを染めることは能わない。

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